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『傘をもたない蟻たちは』感想

 

加藤シゲアキの短編小説集『傘をもたない蟻たちは』を読んだ。

この書き出しから始まる感想記事がこれからたくさん出てくると思うと楽しみでならない。

渋谷サーガと呼ばれる3作のうち読んだのは実は「ピンクとグレー」だけで、私には「NEWS加藤シゲアキ」がどうしても透けてしまうストーリーだったのであまり得意ではなかった。読後の鬱々とした感情による疲労感のせいもあるけれど。あくまでも『小説家加藤シゲアキ』を求めていのに、内容的にも芸能界を扱ったこと、そして私の心の準備もできていなかったのだろうか(これは私の問題だけど)NEWSの加藤シゲアキが透けて見えたのがなんだか嫌だった。


以下、雑すぎる感想。ネタバレ含むかもしれないので嫌な人はまわれ右でお願いします。

 

危惧していた加藤シゲアキが透けるということはなかった。
ジャニーズ事務所NEWSの加藤シゲアキではなく、私の求めていた小説家、加藤シゲアキとしての作品だった。報道では「ジャニーズなのに性描写」という点ばかりがクローズアップされていたけど、もれなく私もそれで気になっちゃった変態枠の人間だから何も言えない件。
NewsZEROの櫻井翔との対談の中でもあったけど「あえて(性描写を)書かない」という選択をしなかったこと、必要なものを(アイドルだから)あえて排除することで生まれる不自然さを避けたこと、これは小説家としてのまた新たな一歩じゃないかなと思った。


印象的だったのは「Undress」と「インターセプトこの2つが断トツで後味悪い。

 

「Undress」はサラリーマンを脱いだ(脱サラした)主人公の転落劇。
その転落劇の筋書きを書いた黒幕の素性はなんだか陳腐なものに思えてしまったけれど、結局社会や企業ってこういうことなんだろうなというなというこれまた陳腐な感想。サラリーマンを脱いでやったと思っていたけれど、それがなければ何物でもないことに気付くというのが滑稽だけれど恐ろしい。脱いでやったのではなく本当はそれが自分のアイデンティティを証明する唯一の武器だったのだ。井の中の蛙大海を知らずといったところだろうか。
社会に生きる上で肩書きは絶対に必要で、それがない人間は社会では無価値とされてしまうのが事実だ。主人公は企業の看板があるからこそいられた場所を、自分の力で手に入れたと思い違いをしていた。上司だったから、同僚だったから、自分に関わってくれていた人たちを自分だからこそ関わっていると思い込んでいた。だから肩書きを捨てても全て自分のものだと思っていた。それが転落を生むのだが、こういう風に思い込んでいる人はたくさんいるだろうなと思った。
「染色」から順調に読み進めていたけれど、あまりの後味の悪さにこの話を呼んで一旦本を閉じた。


インターセプト」は男女の主人公の2つの視点で描いた話。今、話題の「イニシエーション・ラブ」もこの類?
心理テクニックを利用して女主人公をどうにか口説き落そうとする男主人公。カタルシス効果、ミラーリング、パーソナルスペースの利用だとかを駆使して自分の思う通りに事を運び勝利を手にした男主人公。
に、見えたがすべては女主人公の思う通りだったという「女って超怖い」話。
人生のどん底にいた女主人公は、テレビ中継に映った観客の男主人公を自分に人生の希望を与えてくれた運命の人と思いストーカーしていた。この時点で相当怖い。
ネットストーキングから、ゴミを拾い漁るなどのリアルストーカー行為、女性の生理に対してまで描いていてシゲアキの闇の深さというか、なんでこんな女がいること知っているの?と聞きたくなるような描写の数々だった。
「わたしのことは捨てないでね」は何と比較して言っているのか、それがまだよく分からないのでもう一度読んでこようと思う。


言及しなかった作品も読みやすかったけど、全体的に文章がネチネチしているとは思った。まあ、これがシゲアキくんの特徴ともいえるけど。
余韻を残す終わり方をする傾向にあるので、すっきりとしない後味のあまりよくない感じがまだ続いている。でも決して読みにくいというわけではない。ただピンクとグレーと同様になかなかの病み展開なので読後は疲れたけど、これだけ複雑な感情を持たせる文章を書く加藤シゲアキの才能に大きな拍手を送りたい。おもしろかった。

 

にしても、疲れた。

 

 

傘をもたない蟻たちは

傘をもたない蟻たちは